滔々と流れる時の中で、誰もが少なからずの苦しみと迷いを背負いながら生きている。思い通りに進むことなど稀な世界にいながらも、人は時に信じた道を疑い、自分自身の可能性に失望の影を見る。“このままでいいのか――”“本当にこれでいいのか――”と。けれども、内に潜む闇と向き合う恐怖から目を逸らしてはいけないだろう。どんなに苦しくても、どんなに困難な道のりでも、歯を食いしばり、地べたを這いつくばってでも前に進んで行く。上下左右に揺さぶられる脆弱な感情を理性と信念で抑え込み、周囲から溢れ出す雑音や甘い誘惑には耳を塞ぎ、ただ前方に伸びる茨の道が暗示する行先だけを見据えながら。
　６連敗という悪夢のような出来事を経て、前節・ジュビロ磐田戦で乱打戦の末に掴んだ「勝点３」は何より、我々にそういったことの大切さを教えてくれているように感じてならない。その試合、残り試合時間２０分を切る中でピッチに送り込まれ、僅か５分弱の時間の中で値千金の決勝ゴールを決めてみせた大久保哲也選手は、試合後「チームとして悔しい思いをしていたし、磐田戦ということで厳しい試合になると思っていたが、監督も目の前の試合を一つずつ勝っていこうということを話していたし、チームとしてそれを体現することが出来たと思う」と語った。躍動する選手達はまるで水を得た魚のようにピッチ上を縦横無尽に走り続け、日本代表クラスの選手達が揃う相手に対し臆することなく真正面から立ち向かい、力で捻じ伏せてみせた。その光景は、長らく続いた負の連鎖がにわかに信じ難いほどのまばゆさに包まれていた。
　何かの“きっかけ”という萌芽が、何処に芽生えているかを知る者はいない。無論、種を撒きその命を育む為に努力し、汗を流さない者にはそもそも新しく生まれた息吹を感じ取ることさえ出来ないだろう。栃木が、長いトンネルの中でサポーターが照らし出す光に導かれ、ようやく見つけ出した再浮上の“きっかけ”。流した汗が、悔しさに打ちひしがれた日々が、何気なく過ごしていては見落としてしまいそうになるほどの小さな命の在り場所を教えてくれた。
　突風吹きすさぶ荒野に生まれた希望の芽。摘んでしまうことも、枯らしてしまうことも極めて容易なその弱々しい芽を大事に大事に育て上げ、大きな果実を実らせる為に、今出来る最大限の努力を止めることなく続けていく。萌芽を弱らす「過信」や「慢心」は一掃し、正しい「競争」と「向上心」を養分に変えて。
　「残りの試合、一つでも多く勝てればと思うし、Ｊ１昇格プレーオフ圏内へ入るためにも一つでも勝利を引き寄せたいし、そこへ何とかたどり着ければと思う」（西川優大選手）。景色を白銀に染め上げる凍てつく季節の到来の前に、色鮮やかな木々の変色と豊穣に恵まれる穏やかな小休止が訪れる。余すことなく味わい尽くそうではないか。この「収穫の季節」を。

前節・ジュビロ磐田戦で勢いを加速させる先制点を叩き込んでみせた西川優大選手。攻撃力もさることながら、前線からの激しいチェイシングは相手守備陣に落ち着く暇を与えず、阪倉サッカーの体現者として前節の勝利に大きく貢献してみせた。ゴールに飢えた「優」しく「大」きいストライカーに、愛媛ＦＣと激突する今節に向けた意気込みを聞いた。

■西川優大選手コメント：
「（磐田戦のゴールについて）ラッキーでした。あのポジションにいれたことが結果的に良かった。富山で１年近くスタメン出場できていなかった中で、チャンスが欲しくて移籍してきた分、早い段階にスタメンで使っていただいて結果を出せたことは、自分が思い描いていたことだったので本当に良かった。
　守備は前々節の札幌戦でも前半は上手く出来ていたので、（磐田戦では）それを継続して出来ればと思って試合に臨んだ。収穫もあったと感じているので、愛媛戦でもしっかり周りと連携し合いながら闘っていければと思う。
　前線の人間がしっかり点を獲ることが出来れば勝ちに繋がってくと思うし、残り１３試合しかないので毎試合結果を出して行くために準備していきたい。（連勝がかかる試合になるが）僕自身、個人的にも連勝から遠ざかっているので、何とか連勝したいという思いもあるし、連勝していけばまだプレーオフ圏内にも追い着けると思うので、このまま上昇気流に乗って行く為にもホームとなる愛媛戦にまずしっかりと勝利したい。」